スリーピー・ホロウ

ミステリーなダークファンタジーはホラー映画ではない

少し肌寒くなってきたこの時季、秋の夜長に鑑賞してほしい映画を紹介します。「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」「シザーハンズ」など、独特な世界観で知られるティム・バートン監督による作品「スリーピー・ホロウ」です。18世紀末のニューヨーク郊外にある小さな村で起こった連続殺人事件。その遺体はすべて何者かに首を斬り落とされていて、死の国から蘇った首なし騎士の仕業と噂されているのでした。その捜査を命じられたのが、ニューヨーク市警察の刑事イカボッド。迷信や拷問に頼る裁判に異論を唱え、科学による捜査を主張したために、この難事件を押し付けられてしまったのです。捜査を進めていくイカボッドの前に、科学が通用しない存在が立ちはだかって…という物語。全体が限りなくモノトーンに近い沈鬱なカラーで、古典的なゴシックホラーの雰囲気を醸し出しています。まさしく監督のティム・バートンが大好きな世界観なのではないかと思うのです。配役にはジョニー・デップを始め、「ドラキュラ」役で一世を風靡したクリストファー・リーやマイケル・ガフなど、怪奇映画で有名なハマーフィルムプロダクションの俳優などが起用されています。怪しく癖のある村民ばかりの村で連続殺人事件に四苦八苦するイカボッドは、横溝正史作品に登場する金田一耕助と重なって見えたりして。ただ、グロテスクな描写もあり一見ホラー映画のようですが、あまり怖さは感じず、どちらかといえばミステリー色の強いダークファンタジーといった作品に思えます。ではなぜホラー映画にならなかったのかというと、ティム・バートン監督の美学による画面構成もあるのですが、首なし騎士の描き方が大きいと思います。「シザーハンズ」のエドワード、「バットマン・リターンズ」のペンギンやキャットウーマンなど、異形の者に対して思い入れたっぷりに描いてみせた過去のあるティム・バートン監督は、この作品でも恐ろしいはずの首なし騎士を、かっこいいヒーローのように描いてしまっているのでした。ダークファンタジーの世界観を味わいたい人にはオススメの作品です。