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金融腐蝕列島 呪縛

MOVIE 2018.2.26

金融腐蝕列島 呪縛

日本映画(1999)
監督:原田眞人
出演:役所広司、仲代達矢、椎名桔平、根津甚八、もたいまさこ

大手都市銀行の内幕とミドルの奮闘を描く社会派エンターテイメント

「日本の金融業界の内幕を描く社会派映画」なんていうと、いかにも専門用語乱発で意味分からなそう&重苦しそうではありますが、そもそも「社会派映画」といっても二種類あります。ひとつは社会の現実を直視し的確に切り取るような映像を羅列して世の中に社会問題を突きつけるもの。もうひとつは、エンターテイメントの枠組みの中で社会問題をテーマとして取り扱い、人間ドラマとして魅せるもの。前者はドキュメンタリーの手法をとることが多く(例えば「いのちの食べかた」や「ボウリングフォーコロンバイン」)、後者はヒーローもののストーリーになりがちです(例えば「エリンブロコビッチ」や「インサイダー」)。リアルな手触りや記録映像としての価値、社会学的価値を求める人は前者の手法がお好みでしょうが、あいにく僕の好みは圧倒的に後者。そしてこの映画は、その流れで言い換えれば、「大手都市銀行の内幕を描く若手銀行員奮闘記」であり、役所広司というビジネス・ヒーローもののエンターテイメント・ムービーです(だから社会派というキーワードに臆する必要はないし、実際面白い!)。

舞台は大手都市銀行ACB。総会屋への多額の利益供与が発覚し、地検の捜査が入るなど経営危機に陥るものの、すっとぼけて無責任な態度を取る銀行上層部に、ミドルの社員4人(役所広司、椎名桔平、矢島健一、中村育二)がこれじゃダメだと立ち上がって下克上。銀行の再生のために一生懸命、上層部と、メディアと、検察と、闇社会と戦います。原作は高杉良の同名小説。監督は原田眞人。ちなみに原田監督は、この作品の後、「突入せよ! あさま山荘事件」「クライマーズ・ハイ」「日本のいちばん長い日」を撮っている監督だといえば、それらの作品を観たことがある方は、どのような作品づくりをするか想像できるでしょうか。しょっぱなからテンションが高く、その勢いをクライマックスまで持続させ、画面に惹きつけさせてくれます。現実を描く、のではなく、あくまで映画を描く。ドラマをつくる。それがベースになっています。

それからこの映画の魅力はなんといっても俳優陣。銀行の実質的最高権力を持つ相談役に、圧倒的存在感を誇る仲代達矢。佐藤慶、石橋蓮司、梅野泰靖、根津甚八などその脇を固め、検察は遠藤憲一。もう、実に渋い。画面全体がシワシワに乾きそうな渋さ加減が実に美しい。そしてその中でヒーローとして立ち回るのが、ミドル行員役の役所広司、椎名桔平ら4人。本筋だけなら完全に「女こどもに用はない」って感じですが、いちおう、役所広司の家庭を描くハリウッド的なシーンもございます。おっと、忘れてはいけない。あとこの映画で唯一キュートな存在感をみせているのが、弁護士役のもたいまさこ。銀行の重厚な建築背景のなかで、あの不思議なニヒルさ、ユニークさはひときわ輝いています。クライマックスの舞台が株主総会で、株主や総会屋と対峙するというのも興味深いアイディア。そこに闇社会からの報復やマスメディアの在り方、ジェンダー的視点、省庁とのかけひきなど、いろいろな要素を盛り込んで、かなり濃密な114分。楽しいビジネス・エンターテイメントに仕上がっています。「男の仕事って大変なんだよ。こういう緊迫感でいつも残業してんだよ、だからわかってくれよ。休日は寝せてくれよ」と専業主婦の妻に訴えたいという方にもオススメです(奥さんが一緒に見てくれればの話ですが)。