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空の大怪獣ラドン

MOVIE 2017.11.27

空の大怪獣ラドン

日本映画(1956年)
監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二
出演:佐原健二、白川由美、小堀明男、平田昭彦

VFXでは出せない本物のニオイ

今回より特撮映画の紹介を担当することになりました。第1回目に数ある特撮映画の中から選んだのが「空の大怪獣ラドン」です。この作品は怪獣映画としても、特撮映画としても「原点」であるように思うのです。

太古の恐竜「プテラノドン」の生き残りが突然変異した、身長50mの大怪獣ラドン。けっして凶暴な生物ではないし、人間を襲うわけでもないのです。「ただデカイだけ」。普通に暮らしていても、デカい上に超音速で空を飛ぶもんだから、街を壊し、人間を吹っ飛ばしてしまうのです。そして、そのために人間から排除されてしまう…。その悲劇性は、まさに怪獣映画の原点といえるのではないでしょうか。

実写映像をコンピュータ上で加工する「VFX(ビジュアル・エフェクツ)」が主流となった現在の特撮。確かに普通では撮影できないカメラワークや、自由自在な映像を作り上げることができる技術ではあるんですけど、やはり本物の迫力には敵わない気がします。この作品ではミニチュアで再現した舞台で、ラドンが大暴れします。ラドンの巨大な翼が羽ばたいたり、超音速で空を飛べば、衝撃波が巻き起こり、ビルも、屋根瓦も、車も、電車も、あらゆるものが吹っ飛ぶのですが、そこにはミニチュアならではの重みを感じられます。崩れ落ちる瓦礫や土煙、街が燃える炎や川の水しぶきなど、本物だからこその質感、動きを、そしてニオイを感じることができるのです。

最も好きなシーンは、山道を走るジープの真上をラドンが飛び去った後、その衝撃波で吹き飛ばされたジープが転がるシーンです。ラドンが通過するタイミングで転がるのではなく、通過してしばらくした後に衝撃波が起こるタイミング。このタイミングや呼吸の上手さが、円谷英二特技監督による特撮映画の真髄だと思います。ストーリーやテクニックが進化した時代だからこそ、特撮怪獣映画の「原点」に触れてみてほしいと思うのです。