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MOVIE 2017.10.23
細雪
日本映画(1983)
監督:市川崑
出演:岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、石坂浩二、伊丹十三
じっくり観たい。戦前の名家に生まれた、四姉妹の物語。
雨音と京都嵯峨野の桜からはじまる巨匠・市川崑の「細雪」。(冒頭が桜なのでいささか時季外れという感じがしないでもないけれど、)秋の夜長に腰を落ち着けてじっくり味わう叙情的な映画、みたいなテーマで真っ先に思いついたのがこの作品です。上映時間140分、谷崎文学の映像化、さらには東宝創立50周年記念映画、とくれば、さぞ重厚で難解で途中で眠くなりそうで…と思われるかもしれませんが、この作品の美しさとほどよい軽やかさは、誰が見ても心地よく楽しく味わえるもの。本当の力のある映画の強さというか、観終わったときの満腹感は、まさに名作と呼ぶべきものだと思います。
舞台は昭和13年の大阪船場。名家に生まれた四姉妹の話です。この四姉妹が、長女・岸恵子、次女・佐久間良子、三女・吉永小百合、四女・古手川祐子という絶妙な組み合わせ。三女の縁談の話を中心に、見合いしてダメで、見合いしてダメで、見合いして…を繰り返す、あまりドラマチックな進展のない映画ではあるのですが、癖の強い見合い相手の登場や、四女の奔放な恋愛、ちょっとしたスキャンダル、脇役のキャラクターなどが実に面白く、ちっとも退屈しません。特に、次女の夫・石坂浩二、長女の夫・伊丹十三という養子としてこの名家に関わる男たちが実にいい味を出しています。
関西の上流階級の暮らしを、四季の美しい風景を通して見つめつつ、本家と分家、見合いと恋愛、駆け落ちなど、現代とは異なる感覚(あるいは同じ感覚)を見つけてそのギャップを楽しむのも一興。戦前の物語とはいえ、さすが上流階級だけあって、その生活は現代よりもずっと豊かで色鮮やかに感じられます。もちろん、この一家の未来にはこれから戦争の時代が待っている、ということもその色彩をより鮮やかに強烈にさせている理由のひとつです。
美術、衣装、映像、どれをとっても隙がないというか、素晴らしい作品に仕上げるんだという意志を感じられる映画でもあり、こういう作品をこそ、ぜひ20代前半の若い世代にすすめたい。というか、何でこういう映画があまり知られていないんだろう(軽んじられるんだろう)と思って、少し残念です。